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土に呟きながら・慣行農で生活をしながら、自然農を知り、それを実験していた百姓の物語。 (全35話)
右手を眺めて ・脳出血で倒れ、右半身麻痺、うつ病、統合失調症になってしまった百姓の闘病記。  (全31話)
生まれるということ・SLEに病んだ妻の出産に関する物語。 (全30話)
小さな記憶・幼い頃、他人の家で育てられた謎の記憶。 (全24話)
親父になる 第一部・26歳で子供を授かり、本当の意味での親父になるまでの物語。 第一部。(全25話)
親父になる 第二部・26歳で息子を授かり、本当の意味での親父になるまでの物語。 第二部。(全25話)
親父になる 第三部・26歳で子供を授かり、本当の意味での親父になるまでの物語。新連載(連載中)

2014年4月30日水曜日

7話 彼女に会いたくて 1


序章・ 7・ 101112


「父ちゃん、3時だで。起きてよ」
「う~ん、何だぁ?」
「今日は会いに行く日だで」
「あぁ、そうだなぃ。会いに行くかぁ。それにしてもオメェ、毎週よく起きれるもんだわなぁ」

実は二ヶ月程前、息子の大と東沢に入ったんですよ。
遡行の練習も兼ねて、小学生の大には少しばかり難しい東沢を選びました。
この沢は放流があまりされていないようで、居着き岩魚が多いんですね。
尺を超すような岩魚には会えませんが、腹と斑点の黄色い綺麗な岩魚が棲んでるんです。
20cm前後の可愛い岩魚と遊びながら、沢を上って行きましょう。
藪を掻き分け、倒木を潜り、岩によじ登って・・・ 山も沢も魚も、みんな遊び相手ですよ。
そこにあるもの全てが私達を楽しませてくれているようですね。

太陽が昇りきった頃、以前から気になっていた弛みに出ましたよ。
流れは見上げるほどの岩にぶつかり、その岩を包むようにSの字を描いていますね。
その下には程好い弛みが見えるでしょう?
沢沿いの小さな砂地がテラスのようですね。

「大、朝飯にすっかぁ?」
「ウン、腹減ったぁ」
背中の弁当を降ろして、腹ごしらえをしておきましょうよ。
今日は夕方まで釣り続けますよ。
「大、今朝は結構出たなぃ。オイは幾つ出ただ?」
「オラァ12~3かなぁ。でも、持って帰ぇるようなの出ねえで」
「そうさぁ。ここは居着きっきりだでや。そんなんデッケェのは珍しいど」
「ふ~ん、本沢ならデッケェのが棲んでんのになぁ」
「そうだなぃ。だけど、みんな綺麗だっただず?昔っからの魚は、あんな風にみんな腹が黄色いんだで」
「ふ~ん、そう言やぁ父ちゃん、顔ん真っ黒の魚が出たでぇ」
「ほ~ぅ。そりゃぁ、いい魚だわ。居着きの親分かも知んねぇな。ハハハ」
「前に父ちゃんと行った春日の沢はさぁ・・・」
「うん、うん・・・」

握り飯を頬張りながら、息子も釣人の端くれですねぇ。
魚の話となれば、目を輝かせていますよ。
算数の話で、これほど盛り上がれば息子の成績も良くなるんで しょうが・・・ 
まぁ、親が親ですからねぇアハハ・・・ 
 
「大、見てみぃ!いるど!」
テラスの上流の岩、そのエゴからユラッと影が動いたんです。
ゆっくりと、ゆったりと、だけど力強く、弛みを下って来ましたよ。
尾鰭を音もなく左右に振りながら私達の目の前を通り過ぎ、反転し・・・対岸の沈み石の向こう側に付きましたね。
「デケェ。尺上だわな・・・」
「父ちゃん、デッケェのはいねぇっつっただねえか!」
「シーッ!騒ぐな。こんなん、初めてだわ」
「大、仕掛けぇ作り直せ。オラァの籠に一号があるからなぃ。通しで一尋半にしろや。鉤は岩魚8号だな。キジはデッケェの選べよ」
「う、うん」

この沢にこの岩魚ですよ。
久しぶりの興奮ですね。
息子が仕掛けを作り直す間、沈み石から目を離してはいけませんよ。
黒い影が動いたら、教えて下さいね。
こいつは釣りましょうよ!

「大、仕掛けぇ出来たか?」
「これでいいだ?」
 「よし、流してみれや」
ポトッ、スゥーッ。
「食わねぇか?」
「ダメだわぃ。」
「オラァが見ててやるからな、少し流してみぃ」
「うん」
ポトッ、スゥーッ。ポトッ、スゥーッ。ポトッ、スゥーッ。
「だめだぁ。貼りっ付いちまったなぃ」
「父ちゃん、どうすんだ?」
「二時間も待ってりゃぁ、食い気も出るだず」
「そうだなぃ」

ここからは我慢比べになってしまいます。
 私達は気配を消すべく、魚は身を消すべく・・・

「ダメだなぁ。もう何時だぁ?」
「もう4時だで。父ちゃん、夕方も狙うだか?オラァ腹ぁ減ったでぇ」
「そうさなぁ。今日はやめるかぁ」
「父ちゃん、あの子は居着きだだか?」
「そうさぁ」
「会いてぇなぁ」
「そうかぁ。会いてぇかぁ。ほんじゃぁ、来週も彼女に会いに来るかぁ?」
「彼女?」
「おう、ありゃぁ彼女だで」
沢
こうして、彼女への想いを、息子と共にしてしまったんです。
彼女に出会えるのは二ヶ月も先の話なんですがね。
次は、そんなお話にしましょうね。

つづく
 




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2014年4月28日月曜日

6話 本沢の乱


序章・ 6・ 101112


苔
「オォー!入ってる、入ってる。さすがに、連休だわなぃ」
走行距離15万kmを超えた我が愛車「軽トラ四駆スペシャル」の助手席で、師匠クドチャンはご機嫌ですね。
見れば、林道沿いの車停はピカピカの四輪駆動車 が並んでいますよ。
熊谷、多摩、練馬、品川、横浜・・・本沢で釣るために~そう、あのミソサザイの谷ですよ~皆さん遠くから来てるんですねぇ。大変だぁ。
 でもね、私の海釣りも一番近い場所で2時間、遠い所では6時間は当たり前なんですよ。
釣り好きって何でこんなに根性があるんでしょうね。嬉しくなっちゃい ますよね。

「クドチャン、やっぱ止めらず」
「何、言ってるだぁ。やるっつっただねえか。ここまで来りゃぁ、やったって、やんなくったって同じだど」
「でもなぁ・・・」
「タケチャンっちゃぁ、いっつもこうだ。最後んなってビビんだかんなぁ」
「・・・ヤダなぁ・・・何でこんなんなっちまうだぁ?」

決して不穏な話ではないんですよ。
実はね、こんな話なんです。
お昼頃の事です。
消防団の会合で、クドチャンは朝から茶碗酒を数杯ヤッツケテきたんだそうです。
クドチャンの数杯ですからねぇ。たぶん、一升は・・・その足で家に来たんですよ。

「タケチャン、本沢行くど」
「エッ?これからかい?」
「そうだで。ヒック(゜_。)?どうせ東京の衆が入ってるだでな。ヒック?(゜_。)後から入って居着きぃ釣っちまうどぉ・・・(゜ _。)#@%-$///」
こうなったら止められないのが酔っ払いですね。
困ったもんです。
もう軽トラの助手席に陣取ってるじゃないですか。
申し訳ないんで すが、チョットだけ付き合ってくれません?

クドチャンの気持ちも分かるんですよ。
本沢は、クドチャンが子供の頃からの遊び場なんですね。
自転車で通っては、釣ったり探ったり泳い だり・・・二十数年前に亡くしたお父さんのホームグラウンドだったんですね。
そりゃあ愛着もあるでしょう。

 ところが、数年前から遠方からのお客さんが急に増えたんです。
長野オリンピックに伴って、新幹線が開通し、高速道路が敷かれ、観光地が近いこともあって都 会からも遊びに来やすくなったんでしょう。
雑誌等に紹介されたことも手伝って、連休ともなれば下流域は釣堀のようですよ。
師匠クドチャン、どうもそこらへ んが気に入らないようですねぇ。

「クドチャン、みんな、せっかく遠くから来てんだで、何もイヤガラセみてぇな事しなくったっていいでや」
「あにがイヤガラセだぁ?オラァタだって年券買ってるだど。何時、何所で釣ったっていいだねぇか」
「うん・・・・ほいじゃぁ、一番上ぇ行かず。林組の作業場の上なら林道が切れてるからお客さんも入ってねぇんだねぇか?」
「いや、ダメだなぃ。今日は下だで。タケチャン、そこに停めれや」

仕方ないですね。品川ナンバーの後ろに停めさせていただきましょう。
クドチャンの足元は覚つきませんが、とりえず沢に降りましょうか。
あぁ、気持ちがいいですねぇ。
どんな理由にせよ、沢に降りれば生き返る気分ですよ。
タラの芽はもう大きくなっちゃったかなぁ。
山菜も、 もう終りだな。そういえば、林組の上にワサビが自生してたっけ。
昔、ワサビ畑でもあったのかなぁ。
そろそろ毛鉤にバンバン出て来るよなぁ。
連休明けは夕マ ズメでも狙ってみようかな。

アレレ?私が沢を満喫している間に、クドチャンは寝ちゃいましたよ。
ハハハ、調度良いや。
今日は釣らずに岩の上でゆっくりしましょう よ。
あの大岩の上がいいですよ。
ちょっとした窪みがあって、昼寝には最高なんです。
横になってみましょうか。
 楢の枝が沢の両側からせり出して、屋根のようですね。
その向うには空が綺麗でしょう。
あれ?あそこ、枝から枝へ飛び回っている小さな鳥が見えますか?コゲ ラですかね。
木の幹に停まっては、らせん状に登っていきますよ。
幹が無くなった所で、枝を渡り歩いてますよ。
ほら、また幹に降りましたね。
この子は一日 中、こんな事を繰り返してるんですね。

毛鉤


おや?誰か釣り上がって来ましたねぇ。
ほぅ、フライですよ。
へぇ、メンディングが上手だなぁ。かなりの手足ですね。
メンディングはね、 フライには欠かせない技なんですよ。
フライはね、テンカラと違ってラインも水面に落とすんです。
と云うより、落ちてしまうんですよ。
魚から出来るだけ離れ て釣ろうとしますからね。
実際、魚と距離を取った方が出はいいですよ。
でもね、ラインが水面に落ちてるってことは、ラインが川に流されるってことなんです ね。
毛鉤とラインの重さの違いからでしょうか、ラインは毛鉤より早く流されちゃうんですよ。
そうすると、毛鉤がラインに引っ張られて流れに自然に乗ってく れなくなっちゃうんですね。
そうなると、その毛鉤は魚に怪しまれちゃうって訳です。
そこでメンディングの登場なんです。
毛鉤を動かさないように、ラインを 上流に跳ね返すんですよ。
流れの速い所では、2回、3回と繰り返すんですよ。
これができれば、貴方もフライマンってね。

アララ、沢岸で寝ているクドチャンに気付いて、フライマン、驚いてますよ。
あぁ、やさしい人なんだぁ。
クドチャンを起こしてますね。
迷惑をかけてはいけないから、私たちも行きましょう。

「こんちは~、釣ってますか~?」
「あっ、どうも。この人、寝てたようなんですが・・・」
「大丈夫っすよ、ウチの連れですから。朝から酔っ払ってるだけっす。それより、どぅっすかぁ?釣ってますぅ?」
「いやぁ、魚影は濃いんですがね、思うように釣れませんよ。この川は、どんなフライが良いんでしょうかね」

ヨシ来た!いらっしゃ~い!
私、こんな風にやさしくて素直な人が大好きなんです。
明らかに私よりベテランのフライマンですが、本沢の毛 鉤ならまかせて下さいよ。
ハックルは何だ、ボディは何だ、テイルは必要か、ウイングなんか要らない・・・ 毛鉤談義になってしまいましたよ。
なんと別れ際 には、毛鉤を一本づつ交換してましたよ。
やっぱり、やさしい人なんですねぇ。

「お宅は、釣らないのですか?」
「はい、今日は酔い覚ましに来ただけっすから」
「それなら、ここから先行させていただいて良いですか?」
「はい、どうぞ、どうぞ。今日は釣らないっすよ」
「では、またお会いできると良いですね」
「はいっ!」

あぁ、良い気分ですねぇ。
初対面の人でも、釣りって云う共通項でこんなに温かくなれるんですね。
こんな人達の邪魔をしなくて良かったと思いません? あれ?クドチャン、また寝てますよ。
今晩は、家にお泊りですかねぇ。

「おい、クドチャン、起きれや。帰ぇるで」
「う~~~ん・・・」

家に帰って、クドチャン寝かし付けて。
いやぁ、今日はクドチャンに振り回されちゃいましたねぇ。

さて、交換した毛鉤を良く見てみましょうか。
交換した時は話に夢中で良く見れなかったでしょう。
どれどれ、どんな毛鉤かな?
うわっ!凄ぇ~!雑誌に載ってるようなパラシュートですよ。
綺麗ですねぇ。私、こんな毛鉤を巻いてみたいんですよ・・・あっ、私の毛鉤を渡しちゃいましたよね。
うわぁ~、恥ずかしい。
きっと今頃、私のボロキレ毛鉤を眺めながら笑ってるかもしれませんね。まいったなぁ。

あの日のフライマンさん、万が一このページを読んでいただいてたら、是非、御連絡ください。


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2014年4月26日土曜日

5話 ミソサザイの谷


序章・ 5・ 101112


青空
 依田川は武石川との出合いを過ぎると里を流れます。
暫くすると大門川と和田川との出合いを迎え、この先の上流には依田川の名はありません。
今日は左から流れ込む大門川を上がってみましょうか。

この川の上流には車山、白樺湖、女神湖と観光地が多いですね。
乗用車で乗り付けてキャンプもできますよ。
峠の国道沿いを流れる大門川本流は、家族で遊べる渓流って所ですかね。
その大門川が峠に差し掛かる手前、左の深い谷から流れ込む沢があるんです。
右に は土俵を持つ神社があるでしょう?
ホラ、すぐに分かったでしょう?ここは大門川支流、本沢と呼ばれているんです。

さあ、我が愛車「軽トラ四駆スペシャル」に乗ってくださいな。
ツーシーター、四輪駆動、排気量550cc、走行距離15万km超。いい車でしょう?ハハハ・・・数年前、知り合いの農家から譲ってもらったんですがね、まだまだ走りますよ。
本沢に入る道は舗装されているから快適でしょう?
右側の田んぼの向うから沢が近づいてきましたね。
一の橋を渡ると左下に沢が見えます よ。
なかなか良い渓相でしょう?楢のトンネルを抜け二の橋を渡る頃には、舗装もなくなり山の色が濃くなりますね。
春先は山吹があちこちに顔を出して、綺麗 ですよ。三の橋を過ぎた所で降りてみましょうか。

沢に降りたら、まずは一服ですね。
仕掛けを作りながら・・・沢の音を聴きながら・・・ゆったりとした気分に浸るんです。
気持ちいいでしょう?釣りを忘れてしまう事もある程ですよ。
少し、沢を眺めてみましょうか。

「ピピッピピッ」と波を描いて飛んで行くのはキセキレイですね。
胸から腰にかけての黄色が鮮やかでしょう。
この鳥、この辺りの水辺には 何所でもいるようですよ。
石に舞い降りては、体を揺すり、長い尾羽を上下に動かし続けています。
「ピピッ」と澄んだ声を残して、飛んで行っちゃいました ね。

「おっと。びっくりしたぁ。」音もなく黒い弾丸のように川筋を一直線に低空飛行して行ったのは、カワガラスですね。
カワガラスには、い つも驚かされるんです。
突然現れては、アッという間に上流に消え去るんですよ。
無口な奴でしてね、あまり声を聴いた事はありません。
飛び立つ瞬間、 「グゥィッ」と鳴いたような気がしましたが、果たして鳴き声なんでしょうかね?
そういえば、師匠クドチャンはカワガラスが大きな淵に潜るのを見た事がある そうですよ。
不思議な鳥ですね。
ミソサザイ

「チチチピィピィチュルルチリリリ」いました、いました。
短い尾羽を立てて、丸い腰を振りながら岩の隙間からの登場です。
チョンチョンと 跳ね歩きながら、虫でも探してるんでしょうかね。
こげ色の体はスズメより小さいでしょう。ミソサザイですよ。
私、この鳥が大好きでしてね。
沢で出会うと必 ず見入ってしまうんです。

大木の根は地面を這い回った後、沢沿いで大きく垂れ下がり洞のようになってますよ。
その中は薄暗くジメジメしているようですね。
周りの 岩には苔が生し小さな羊歯も見えます。
子供の頃なら仲間だけの秘密基地になっていたでしょうね。
ミソサザイは、そんな所で忙しく囀り、はしゃぎ回っていま すよ。
なんだかワクワクしてきませんか?

おや?もう陽が落ちてきましたよ。谷は空が狭いですからね。
陽が落ちるのも早いんですよ。毛鉤には丁度良い時間になりました。流してみましょうか。

「ミソサザイの遊ぶ谷には美しい岩魚が棲むんだよ。」
昔、誰かに教わりました。今日も、きっと美しい岩魚と出会えますよ。

そんな本沢も、今では遊歩道が巡り、誰でも入れる沢になってしましました。
あの小鳥たちはどうしたんでしょうねぇ。。。


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2014年4月24日木曜日

4話 苔生す沢


序章・ 4・ 101112


岩魚の棲む沢は支流の支流、そしてそこに流れ込む小さな流れなんです。
林道からも見えないような谷の底にひっそりと流れているんですよ。
光と水と風 と生き物だけの世界です。
独り立ち降りれば、怖い程の静寂感に包まれるでしょう。
私にとってその瞬間は私自身を感じる数少ない時なんですね。
この沢はそん な沢なんです。地図には載っていますが名前は書いてありませんよ。どうです?降りてみませんか?

いったい私はこの斜面を何度降りたことか。
まだ雪が残る早春、水楢がモコモコと葉を広げる夏、禁漁間際の晩夏。
朝な夕なに飽きもせず通 い続けているんです。
この沢は昔キノコを採りながら竿抜けを探している時見つけたんですがね、ホラ、岩は苔生して踏み跡もないでしょう?沢沿いは植林もし てませんし、ましてやゴミなんて・・・

沢は1m程の落差が続いてますね。
底石もほど良くありますし、岩魚が棲むには恰好の沢でしょう?
でもね、残念ながら秘密の沢なんです よ。
師匠のクドチャン、地元名人の宮坂さん、漁協の柳沢さん、たぶん知ってると思うんですがねぇ。この沢が話題に上がったことがないんですよ。
私も、ここ はカミサンと息子にしか教えていません。
私は気に入った沢を誰にでも教えてしまう癖があるんですが、ここだけは特別なんですよ。

何故ってね、「苔」なんです。
これだけ立派な苔が続く沢はこの辺りでは珍しいですよ。
他にも苔生す沢はあるんですが、踏み跡がスゴイん ですね。
ポイント近くの苔は、見るも無残ですよ。
石の頭は剥げて、もう黒光りしちゃってます。
カミサンの話では、この苔が石の頭を覆い尽すには気の遠くな るような時間がかかるんだそうです。
釣人は、森や川や海や命を大切にしますよね。だから、釣人が入渓した時は鮮やかなこの苔に目を見張った筈ですよ。
こん な綺麗な沢に降りたことを感謝するでしょうね。
だけど悲しき性、釣人は魚追い人。
魚に夢中になっちゃうんでしょうね。
生い茂る苔、その上を忙しくはしゃぎ まわるミソサザイ、川筋を飛び去るカワガラス、いつの間にか見えなくなっているのかも・・・

さて、今日は特別、この沢で釣りましょう。川幅は3mもありませんよ。竿は4.5mの渓流竿。糸は0.6号の通しにしましょうか。一尋で充分ですね。毛鉤は16番の「たけちゃんスペシャル」でいきましょう。
竿はポイントとの距離に合わせて竿尻から畳むんですが、岩魚から遠い場所で釣った方が打率は上がりますよ。あの底石の脇を流してみようか。水面に毛鉤をチョンと置いたらスーっと流そうね。流れに逆らわないで・・・
古木
シャッ!「ホラ来た!」
「アワセなきゃ。軽く手首を下げる感じでいいんだわ」
「も一度やってみるかい?」チョン、スーッ・・・  チョン、スーッ・・・
「あぁ、もう石に付いちまったなィ。もうダメだわい。次、行こうや」
「あの石、狙ってみるかい?」チョン、スーッ・・・
シャッ!クンッ!「うまい!掛かったでや」
「ここは木が生い茂ってるから竿は上げらんねえぞ!竿を畳んで取り込めや!」

沢釣り、楽しいですよ。今度は鳥の話でもしましょうかね。


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2014年4月22日火曜日

3話 出没注意


序章・ 3・ 101112


まだ里山にはチラホラ雪が残っています。上流はまだ雪深いでしょう。
雪中行軍は釣りになりませんよね。
里川をゆっくりと釣りましょうか。
シジュウカ ラですかね。
「ツィーピ ツィーピ」 中洲の川原柳に騒がしく群れていますよ。
シジュウカラがこんなに群れるなんて、この時期くらいでしょうか。
「もうす ぐ暖かくなるぞ」って山も川もワクワクしているようです。
雪融けが始まった茂沢は騒がしくも楽しい里川なんです。
この頃はブッシュも無く、フライも振れま すよ。

「う~ん、毛鉤じゃ無理だわなぁ」師匠、クドチャンの独り言。
「そんな大っけぇ声の独り言、聞こえてんだけどなぁ・・・」

でも試してみたいのが「毛鉤屋たけ」。
鉤は24番。胴は孔雀、羽はグリズリー。
しかもフライタックル。アレ?夏と変わらないじゃん。
鉤とタックルが変 わっただけなんじゃない?
そうなんです。夏の毛鉤を小さくしただけなんです。

でもね、私なりの考えはあるんですよ。
フライの場合、早期はミッジですね。
今日の鉤は24番、充分ミッジです。
この時期のフライは蜻蛉の幼虫を模している毛鉤が多いですね。
今日の毛鉤は羽が短く、沈めて使います。
これは立派な蜻蛉の幼虫です・・・の筈です。
クドチャンの仕掛けは、相変わらず提灯仕掛けに自家製のキジ。
キジを 養殖してるんですよ、この人。
一年中何所の川でもこの仕掛けなんです。
拘りもここまで徹底すれば立派ですよね。

・・・ロッドは6'6"#2。6X12ft.のティペットの先では、鱒達を興奮させるには充分なミッジが、まだ肌寒い春風と戯れてい た。
嘗て彼と出会った鱒達がそうであったように、この流れに身を隠す鱒達も本能を揺す振られ彼のミッジに襲いかかって来るに違いない。
ランディング・ネッ トは静かにその時を待っていた。
 ・・・なんちゃって。

そう、自分はイエローストーンを歩く伝説のバックパッカーだと信じ込み、フライを振るんです。
しか し、現実はキビシイですね。
山女魚は毛鉤には見向きもせず、キジを貪っていますよ。
やっぱりこの時期は餌釣りですかねぇ。
家に帰ったら、クドチャンの自慢 話と私の言い訳話を肴に一杯やりますか。

重そうな魚篭を腰に提げて、クドチャンが近づいてきましたね。おや?なんだか様子が変ですよ。
「おい、あれ見てみ」
「何だぁ?」
100m程先の山裾に大小の黒い玉。なにやらモゾモゾ動いていますよ。
「ありゃぁ、熊だねぇか?」
「おう」
「親子だなぁ」
「たぶんな」
「・・・・」
「・・・・」

まずいですよ。二人とも固まっちゃってます。
「戻らず」
「おう」
私達から見えるんだから、向うからも私達が見える。
確か、熊は目が悪かったような。
鼻が利くって聞いたことがある。
今、風向きはどっちなんだ?

福寿草・・・頭の 中を駆け巡りながら、何とか無事にクドチャンのジープに辿り着きましたよ。
車に乗って、まずは一服。
何故か無言の一服です。
長い沈黙を破ったのはクドチャ ンです。
「こんなジープの幌なん、一発で破られちまうわなぁ」
私が「そりゃ、そうだ」と言いかけた時、もうジープは走り出していましたよ。

夏には近所の年寄りが草刈をするような、秋にはカミサンがキノコ採りをするような、そんな里山ですよ。
そんな所にまで熊が降りてきてるんですね。山は餌が少なくなっているんですかねぇ。


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2014年4月20日日曜日

2話 四面楚歌


序章・ 2・ 101112


我等、中年釣り師の永遠の課題。御気楽に考えてみましょうか
中年ではない貴方、それを認めようとしない貴方は、シュミレーションとして読んでいただきたい


命題
世 間では、貴方は働き盛り。

会社では上司にも恵まれ、部下も今時のオコチャマではない。
残り20年のローンを抱えてはいるものの郊外のマイホームに、美人と はいえないが控えめで気の付く妻、優秀とはいえないが活発で素直な息子との三人暮らし。
誰もがうらやむ幸せな家族。
しかし、その家族に悪魔の手が忍び寄ろ うとしていることは、誰一人と知らない。
 そう、貴方意外は・・・何故って?貴方は無類の釣りキチだったのです。

今週末は花の3連休。貴方は一ヶ月前から、仲間と遠征の計画を練っていた。

今回は、あの一級沢だ。
週末を指折り数えながらデスクに向かっていると、上司からの呼び出し。

はて?行ってみれば、地獄の一言。
「君、今度の日曜日、ゴルフに付き合ってくれんかね。△△商事さんのご指名だよ。これで君も仕事がし易くなるね。あ、※※カントリーにリザーブ済ませたから、宜しく頼むよ。」

※※カントリー?一流じゃん・・
もう、お分かりですね。さあ、貴方ならどうします?



仮説~男は仕事だろ!~
そうです。その通り。

そして、そう言いきれる貴方は立派な社会人。
◯◯が逃げるわけじゃあるまいし、大事な仕事をサボッてまで遊んじゃいけない。

仲間なら解ってくれるさ。昨日今日の付き合いじゃないんだ。イヨッ!日本男子だね~。
日曜日、貴方の手は岩魚竿ではなく、ドライバーを握る。

ついでに△△商事さんともニギる。そして負ける。
上司にも△△商事さんにも可愛がられ、仕事は順風満帆、絶好調!
しかし貴方は気付かない。
そこに大きな落とし穴があることを・・・

その次の日曜日、例の仲間がマイホームを訪れる。

先週の貴方を慰めに?さすが男だ!と敬意を表しに?
いやいや、釣り仲間はそれほど甘くない。
◯◯の生写真をテーブルに広げ、自慢話に花が咲く。
貴方の神経を逆なでる。
釣りキチとして、これほどの辱めはない。
この日、貴方は地獄を見る。

仕事という二文字と引き換えに・・・


仮説~俺は釣り師だ!~
そうです。その通り。

そう言いきれる貴方は立派な釣り師。
△△商事が逃げるわけじゃあるまいし、◯◯を諦めてまで仕事しちゃいけない。

上司なら大丈夫。今回は叔父を危篤にしちゃえ。イヨッ!釣りキチだね~。
日曜日、貴方は岩魚竿を握り、◯◯に立つ。

天気は最高、釣果はバッチリ。
久しぶりに会えたヒレピン岩魚に、釣りは順風満帆、絶好調!しかし貴方は気付かない。
そこに大きな落とし穴があることを・・・

月曜日、上司に呼び出される。

「叔父さんの具合はどうなんだね?△△商事さんも残念がって・・・君!病室は屋外だったのかね?!」
陽に焼けた貴方の額に汗が吹き出る。
社会人として、これほどの辱めはない。
この日、貴方は地獄を見る。

釣りという二文字と引き換えに・・・


沢遥か遠い昔、最初の一匹を手にした時から、悪魔は貴方を待っていたのです・・・フフフ・・・

結論~地獄を見るなら釣りだ!~
そうです。その通り。

そう言いきれる貴方は立派な釣キチ


 




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2014年4月18日金曜日

1話 釣ってますか~?


序章・ 1・ 101112


何年前だったかなあ、高速道路ができたんですよ。
新幹線も開通して、東京や大阪から気楽に来れる地方になったんです。
そう、そう、長野オリンピック のチョット前からですかね。

以前は陸の孤島なんて言われてましてね。
実際、県外に出るのは大変な事でした。隣村に行くのも峠越えですからね。

当然、釣人も増えましたよ。
週末、本流沿いに並ぶのはピカピカの四輪駆動車。
「川釣りが好きな人ってこんなんいるだ?」って思ったもん です。
 釣具屋さんの日釣券名簿を見ても、やっぱり他県の釣人が増えてるんです。

「日本の渓流釣り場なんとか編」なんて本も出てますし。
まあ、この本の「千 曲川・東信編」には知人が協力したんですがね。なかなか楽しかったそうですよ。

「こんちわ~!釣ってますか~?」いつでも誰にでも声をかけます。
でも渓流釣ですから、タイミングを見計らってね。
大声や足音は禁物ですから。


ダム湖
いろんな所に住んでる人、いろんな考え方の人、いろんな釣り方の人、とても沢山の人に会えました。
お話できました。
渓流好きってゆう共通点だけで。
時には私と同じ、海も好き、魚が好き、人が好きって人にも会えました。
その人達と、そのお話は私の宝物になってるんです。
 少しづつお話しましょう。私の釣り。
支流の支流、子供でも跨げる程のチョロ沢に棲む魚の話。


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2014年4月16日水曜日

11 お袋

10・ 11・ 1213

お袋が親父のところへ逝った。
息子と老人ホームに着いた瞬間に逝った。
延命措置はぜず、安らかに眠るように呼吸が止まった。

併設されている病院からお医者さんが来る。
聴診器をあて、脈を確認し、瞳孔を調べる。

「ご臨終です」
「はい。ありがとうございました」

不思議と悲しさがない。
楽になったのかな? という思いがした。

亡くなったお袋の顔を眺めながら、二晩思い出にふけった。
思い出の中のお袋はいつも笑ってたな。

16歳でシチズンに入社し、親父と出会って結婚して。
俺と二人の妹を生んで育てて。

親父が逝った時の通夜と同じところに納められ。
孫たちに囲まれて朝まで呑み明かし。

そういえば、俺はいつも酒でお袋には勝てなかったな。
いつも俺がつぶされてたっけ。

お袋は痴呆になってたからね。
俺が最後に会った時は、「猛に良く似た人だね」 って言葉だったっけ。

俺の家には仏壇がないけど、本棚に作った親父の遺影の隣にひとつ写真が加わった。



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